カマチグループ 東京品川病院

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脊髄脊椎外科

主な病気について

頸椎症性脊髄症とは

脊椎の加齢的変化により椎間板の変性、椎体の骨棘形成、黄色靭帯の肥厚などが重ねあいながら、次第に脊髄を圧迫して、進行性に四肢の運動麻痺や知覚障害を起こす病態です。頚椎症性脊髄症では75%の症例で進行性に悪化します。このうち1/3の症例は段階的に、2/3の症例は徐々に進行します。いずれの場合も中・高齢者に多く発症するため、歳のためと勘違いしたりして、症状が進行してから受診する症例が多いのが特徴です。頚部痛は稀である点がさらに発見を遅らせる原因となっています。

症状

脊髄の各部分の障害が初発症状となります。

  1. 運動機能障害
    腕の脱力、細かな作業ができなくなったり、肩の挙上ができなくなることもありますし、また下肢の運動障害が出現して、歩行時によくつまづいたりするようになります。進行すればはしを持てなくなったり、自分ひとりでは歩くことができなくなります。
  2. 感覚機能障害
    上肢の痛みやシビレで発症することがあります。新聞をうまくめくることができなくなったりします。下肢の冷感やシビレの場合もありますし、眼を閉じたり、暗い部屋ではフラフラするようになる場合もあります。さらに進行すれば手足のみならず、体中がしびれるようになってしまいます。

治療

初期の頚髄症であれば保存的治療が有効です。血流改善剤や安静治療で回復する場合があります。しかし、頚椎症性脊髄症は加齢に伴い進行する病態です。進行する場合は時を逸せずに手術治療に踏み切る必要があると信じています。
日本整形外科学会では頚髄症治療判定基準をもうけています。脊髄脊椎外科治療センターでは17点満点中13点以下になる場合または非常に強い上肢の疼痛などで日常生活・社会生活に大きな支障がある場合、外科的治療を選択する場合があります。
手術治療には大きく、前方から手術する場合と後方から手術する場合があります(手術方法参照)。頚椎症性脊髄症はほとんど加齢に伴い悪化進行しますから、基本的には後方から脊柱管拡大術を選択します。しかし、変形が強い場合や比較的若い年齢で発症した場合には前方から固定を追加しないといけない場合もあります。

  1. 頚椎前方除圧固定術
    1~2椎間に限局した場合、後弯変形のある場合、脊髄神経の一側が強く圧迫されている場合などには前方除圧固定術を選択します。
  2. 頚椎椎弓形成術
    2~3椎間以上の脊髄の圧迫がある場合、高齢者、先天性に脊柱管狭窄が強い場合などには後方から頚椎椎弓形成術を選択します。

脊髄脊椎外科治療センター担当医がカンファランスを行い、患者・家族の方と相談の結果、最も有効な治療を決定します。

頚髄症治療判定基準(JOA score)(17点満点)

  • 上肢運動機能
    0:箸またはスプーンのいずれを用いても、自力では食事をすることができない。
    1:スプーンを用いて自力で食事ができるが、箸ではできない。
    2:不自由であるが、箸を用いて食事ができる。
    3:箸を用いて日常食事をしているが、ぎこちない。
    4:正常
  • 下肢運動機能
    0:歩行できない。
    1:平地でも杖または支持を必要とする。
    2:平地では杖または支持を必要としないが、階段ではこれらを要する。
    3:平地・階段ともに杖または支持を必要としないがぎこちない。
    4:正常
  • 知覚
    A.上肢
    0:明白な知覚障害がある。
    1:軽度の知覚障害またはしびれがある。
    2:正常

    B.下肢
    0、1、2ともに上肢と同じ。

    C.躯幹
    0、1、2ともに上肢と同じ。
  • 膀胱
    0:尿閉。
    1:高度の跛遺尿障害(残尿感など)。
    2:軽度の排尿障害(頻尿、開始遅延)
    3:正常

頚部脊柱管狭窄症

頚部脊柱管狭窄症には先天性頚部脊柱管狭窄症と頚椎の変性(骨棘形成、椎間板の突出、黄色靭帯の肥厚などによる頚椎症と同義語)、椎弓、硬膜、靭帯の肥厚や石灰化により脊髄・神経根が圧迫障害される進行性頚部脊柱管狭窄症を含んでいます。頚椎症性脊髄症と進行性頚部脊柱管狭窄症はほとんど同じ病態を意味しています。

代表症例1 頚椎症性脊髄症(48歳 女性)

四肢のシビレと上肢の疼痛で発症。保存的加療を行うも上肢の巧緻運動障害が出現・悪化。1椎間に限局しているため前方除圧固定術を選択した

代表症例2 頚椎症性脊髄症(71歳 男性)

四肢のシビレと両上肢・下肢運動障害。多椎間に限局しているため頚椎椎弓形成術

代表症例3 頚椎症性脊髄症(65歳 男性)

他院で術後から次第に四肢運動障害が進行。後弯変形と多椎間狭窄のため前方・後方手術
以前はJOA scoreが8点以下が外科的治療の適応とされていました。しかし、すでに症状が進行してしまった脊髄症はいかなる治療法を選択しても臨床症状の改善はありません。以前は手術による悪化例は19%とされていました。近年、顕微鏡を利用した手術技術の進歩の結果、手術による神経学的合併症は非常に少なくなり、最近の知見では13点以下になると、脊髄は不可逆的障害を起こし、ADLの低下を食い止めることができなくなるため、13点以下になれば外科的治療が望ましいとする報告がほとんどとなっています。この13点という点数はどのような程度かといえば、例えば手足に軽い痺れがあり、階段の昇り降りの際に手すりが必要になれば13点なのです。いかに軽い時期に手術治療が必要か理解できると思います。ただ、どの施設も同じような成績かといえば決してそうではなく、手術技術は各施設で大きく異なります。手術数ばかりでなく、手術成績を公表している施設で治療を受けないといけないことは当然のことです。

椎間板ヘルニアとは

腰椎間板ヘルニア

ヘルニア hernia とは臓器の一部が本来あるべき場所から逸脱した状態です。つまり、椎間板ヘルニアとは繊維輪(周辺の硬い部分)に亀裂が生じ、髄核(中心部分)が繊維輪を破って飛び出し(膨れて)しまう事を椎間板ヘルニアと言います。飛び出した(膨れた)椎間板が神経などを圧迫する事により、激しい痛みや痺れなどの症状を引き起こすのです。
多くの場合、脊椎椎体の後方を支持している後縦靱帯が強固なため、やや一方に偏在して存在することが多く、一側の神経根を圧迫して、激しい神経根性の下肢の疼痛、運動麻痺、歩行障害などを生じます。腰痛はあることが多いですが、やはり特徴的な症状は下肢の疼痛です。ひどくなると膀胱直腸障害を来たすこともあります。

腰椎間板ヘルニアの治療

1)保存的治療

保存的治療で腰椎椎間板ヘルニアの80%は治癒します。多くの場合、保存的治療で約2週間以内に日常生活の支障が少なくなり、ヘルニアそのものもMRI画像上70%は3~6ヶ月で消失します。当院では手術治療は積極的には行っていません。保存的治療の方法として当院では(1)鎮痛剤、血流改善剤などの薬物療法 (2)神経根ブロック、硬膜外ブロックなどペインクリニック的療法 (3)安静・牽引・リハビリテーション療法 などを行っています。通常の髄核が脱出した場合は症状が改善することが多いのですが、中には繊維輪や椎体のそばの軟骨がはがれて脱出したりするとなかなか改善しません。この場合は手術が必要になることがあります。

2)レーザー治療

保存的治療で80%の治癒率であったことを考慮するとレーザー治療の有効性は疑問が多いと思われます。実際のところ、レーザー針を刺入する前のブロックやレーザー治療後に服用するステロイドなどの効果もあり、無作為試験での有効性は証明されていません。“成功”率は37~75%程度であり、中・高年者はほとんど無効です。保存的治療と大差はないため、日本では保険外治療となっています。よく、『切らずにヘルニアは治る。』とレーザー治療の宣伝の雑誌を見かけますが、私たちに言わせれば『外科的治療が必要ないヘルニアは切らずに治る。 レーザーの必要はない。』が正しいと思います。当院では行っていません。

3)外科的治療

(1)顕微鏡的腰椎椎間板ヘルニア摘出術
(2)内視鏡的腰椎椎間板ヘルニア摘出術
当院では顕微鏡的腰椎椎間板ヘルニア摘出術を選択しています。理由は顕微鏡視下の手術は脊髄脊椎の手術の際に必ず使用しており、われわれ脊髄脊椎外科治療センター全員が熟達しているためです。また手術時間・術後成績は安定していますので、内視鏡手術は行っていません。外科的治療の一般的合併症として感染、運動麻痺の増悪、硬膜損傷、動脈損傷、肺塞栓、術後硬膜外血腫などありますが、当院ではこれまでに経験したことがありません(当院での主な手術方法、合併症参照)。最も重要な点は再発を起こす可能性がある点です。一般的には3~19%とされています。

←左下肢痛で発症した、
L4/5に発生した腰椎椎間板ヘルニア
←両側の下肢痛、膀胱直腸障害で発症した、L2/3に発生した腰椎椎間板ヘルニア。硬膜管を完全にブロックしているため、緊急手術を行った。

頸椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアと同様に通常はヘルニアのレベルで神経孔をでる神経を障害しますが、頚椎には腰椎にない脊髄が存在しますので、脊髄そのものを圧迫して症状が出現する場合があります。脊髄は先述したように中枢神経であり、一度障害されるとほとんど回復しません。脊髄から出た後の神経を圧迫して上肢の疼痛が生じている場合は、保存的な加療で80%が治癒します。

症状

まず肩こり、首の痛みなどの局所の症状として始まり、その一部には上肢の神経根症状が加わり、さらに、そのまた一部に体幹(胴)や上肢(手と腕)の脊髄症状が加わります。このため、初期の局所症状の段階では、ただ単に寝違いの診断ですまされているものも少なくありません。また頸椎椎間板ヘルニアの存在する高さによって手足に発生するシビレや痛み部位、触覚や痛覚などの知覚障害がおこる部位に、違いが見られます。頸椎椎間板ヘルニアをレントゲン写真で確認することはできませんが、MRI、さらには脊髄造影などを行えば、椎間板の盛り上がりやふくらみや脊髄の圧迫像として見ることが出来ます。

特徴的症状:全身の症状がありますので歩きにくいからといって腰椎と勘違いしないようにしましょう。

  • 首~肩~腕~指へのしびれ感、痛み。
  • 咳やクシャミ、首を後ろに反らすと肩甲骨や手指に電気が走る。
  • 肩や肘、手指が思うように動かせない。筋力低下など。
  • 上下肢のしびれ感(手袋や靴下を履く範囲→体幹へ広がる)、痛み、灼熱感、冷感、筋力低下。
  • 巧緻(こうち)運動障害(ボタンかけ、ハシの使用、筆記)。
  • 足が突っ張って歩きにくい、軽い筋肉痛のような違和感 ・膝がガクガクする、階段を下りるとき手すりがないと不安などの歩行障害
  • 直腸膀胱障害(おしっこや便の出具合が悪い)など

頸椎椎間板ヘルニアの治療

1)保存的治療

当院では

  1. 鎮痛剤、血流改善剤などの薬物療法
  2. 神経根ブロックなどペインクリニック的療法
  3. 安静・牽引・リハビリテーション療法

などを行っています。

しかし、脊髄が圧迫を受けている場合は保存的治療ではなく手術治療をお勧めする場合があります。特に手足のこわばりや、しびれにはもっと早く手術すれば良かったと悔やまれることがあります。皮膚や骨は再生しても、脊髄の細胞には再生は望めないからです。圧迫された状態が長く続くと、神経細胞がだめになり手術をして圧迫を取り除いても、だめになった脊髄細胞は元に戻らなくなっています。こうならないための指標として

  • これ以上我慢できない痛み
  • 手をむすんだり開いたりグーパーをする。 →10秒間で25回が目安。10秒間に20回以下は要注意
  • あごを胸につけた後、ゆっくりと天井を見上げる →違和感があるかどうか
  • 片足でぴょんぴょん跳ぶ →スムーズにできるかどうか

もしできないようであれば早急な手術治療が望まれます。
 

2)外科的治療

頚椎前方除圧固定術が基本になります。時に固定を行わずに外側からヘルニアのみを摘出したり、後方からヘルニアを摘出する場合もあります。外科的治療の一般的合併症として感染、運動麻痺の増悪、硬膜損傷、動脈損傷、嚥下障害、食道・気管損傷などありますが、当院ではこれまでに1例も経験したことがありません(当院での主な手術方法、合併症参照)。前方除圧固定術の最も重要な問題は固定により長期的に別の椎間に再度ヘルニアが出現したり、変形により再び脊髄が圧迫されることがあります。長期的な報告では前方除圧固定術を受けて10年以上経過した症例の30%程度に脊髄の圧迫が起こることが報告されています。術後の頚部の姿勢には注意が必要です。

脊椎靱帯骨化症とは

頸椎後縦靱帯骨化症

後縦靭帯骨化症(OPLL)とは、脊椎椎体の後縁を上下に連結し、脊柱を縦走する後縦靭帯が骨化し増大する結果、脊髄の入っている脊柱管が狭くなり、脊髄・神経根が圧迫されて知覚障害や運動障害等の神経障害を引き起こす病気です。骨化する脊椎のレベルによってそれぞれ頚椎後縦靭帯骨化症、胸椎後縦靭帯骨化症、腰椎後縦靭帯骨化症と呼ばれます。ここでは圧倒的に多い頚椎後縦靱帯骨化症について記載します。 
国内の一般外来を受診する成人の頚椎側面単純レ線写真からの調査では、1.5%から5.1%(平均3%)の発見頻度があります。男女比では2:1と男性に多く、発症年齢はほとんど40歳以上です。 明らかな原因は不明です。この病気に関係するものとして家族内発症があるということ、性ホルモンの異常が存在すること、カルシウム・ビタミンDの代謝異常、糖尿病、肥満傾向、老化現象、全身的な骨化傾向、骨化部位における局所ストレス、またその部位の椎間板脱出などいろいろな要因が考えられています。後縦靭帯骨化症は黄色靱帯骨化症、前縦靱帯骨化症を合併しやすく、骨化部位は縦方向や横方向に増大、伸展していきます。骨化があればすぐに症状が出現するわけではありません。症状が重度になると、日常生活にかなり障害がでてきます。介助を要することもあります。また軽微な外力で四肢麻痺になることがありますのでその存在を知っておく必要があります。

症状

頚椎にこの病気が起こりますと、最初にでてくる症状として首筋や肩甲骨周辺に痛みやしびれ、また特に手の指先にしびれを感じたりします。次第に上肢の痛みやしびれの範囲が拡がり、下肢のしびれや知覚障害、足が思うように動かない等の運動障害、両手の細かい作業が困難となる手指の運動障害などが出現してきます。重症になると排尿や排便の障害や一人での日常生活が困難となる状態にもなります。胸椎にこの病気が起こりますと上肢の症状以外の頚椎の時と同じ症状となります。初発症状として下肢の脱力やしびれ等が多いようです。また腰椎に起こりますと歩行時の下肢の痛みやしびれ、脱力等が出現します。これらの症状は年単位の長い経過をたどり、良くなったり悪くなったりしながら次第に神経障害が強くなってきます。慢性進行性のかたちをとるものが多いようです。中には軽い外傷、たとえば転倒して特に頭等強く打たなくても急に手足が動かしづらくなったりします。

←頚椎後縦靭帯骨化症の占拠率
有効脊柱管前後径(A-B)
8mm以下 脊髄症状発症の可能性 あり
6mm以下 脊髄症状確実

 

骨化の脊柱管内占拠率が高いほど
脊髄障害が発生しやすい

頚椎後縦靭帯骨化症の分類
(厚生省OPLL調査研究班)

a. 連続型(continuous)
b. 分節型(segmental)
c. 混合型(mixed)
d. その他(椎間板限局型 circumscribed)

頸椎後縦靭帯骨化症の治療

1)保存的治療

保存的治療の方法として当院では鎮痛剤、血流改善剤などの薬物療法を基本においています。しかし、後縦靱帯骨化症は先に記載したように、進行性に悪化する可能性のある疾患です。症状は緩徐に進行する場合もありますが、ある時期を過ぎると急速に進行して、麻痺を起こす可能性があります。定期的な受診が重要です。保存的治療で非常に重要な点は牽引治療は禁忌であることです。

2)外科的治療

手術治療法として(1)後方除圧手術、(2)前方除圧手術があります。
後方法の利点としては頚椎後縦靱帯骨化症に対して全体的な脊髄の除圧を行うことが可能であり、危険性がほとんどありません。私たちの施設では手術後に麻痺が進行した症例は1例もありません。非常に安全な方法といえます(当然、施設による差は大きいと思いますが)。しかし、脊柱管外側に大きく張り出した後縦靱帯骨化巣では、後方除圧で脊髄のねじれのために新たな麻痺が起こる可能性が指摘されているため、前方法の適応となります。
前方法の最大の利点は前方から圧迫する後縦靱帯骨化巣をほぼ完全に摘出することが可能な点です。しかし、手術難易度は高く、多椎間(3椎間以上)例には適応がないと考えています。
当院では前方法を1~2椎間に限局する一側に偏在した後縦靱帯骨化症例に選択し、それ以外は後方法を選択しています。このような選択基準で過去に術後に麻痺が増悪した症例は1例もありません。

胸椎黄色靱帯骨化症

黄色靱帯骨化症とは脊柱管の後方にある椎弓の間を結ぶ黄色靱帯が骨化し、脊柱管が狭くなり、神経の圧迫症状が出現してくる病気です。病気の原因は不明です。後縦靭帯骨化症と合併しやすい事実がありますが、病因は、はっきりしていません。胸椎の下位に起こりやすいことは胸椎と腰椎の連結するところに負担がかかりすぎることから起こりやすいとされています。

症状

全く症状を起こさない方もいます。また徐々に下肢症状が悪化する方もいます。初発症状として下肢の脱力やこわばり、しびれまた腰背部痛や下肢痛が出現してきます。痛みがない場合もあります。数百メートル歩くと少し休むといった間歇性跛行を来すこともあります。重症になると歩行困難となり、日常生活に障害を来す状態になります。

治療

神経が圧迫されて症状が出現した場合に治療の対象になります。安静臥床や消炎鎮痛剤の内服を行います。種々の治療法を組み合わせて経過を見ますが、神経症状の強い場合は手術を行います。この場合、骨化巣を切除して神経の圧迫を取ります。

腰部脊柱管狭窄症とは

症状が出現する腰部脊柱管狭窄症は第4/5腰椎間が最も多く、ついで第3/4腰椎間です。一般的には先天性に軽度の脊柱管狭窄が存在し、これに加齢に伴う椎間関節の肥厚、黄色靭帯の肥厚、椎間板の突出、脊椎のすべり症などが伴い特徴的な症状を呈してきます。

症状

(1)間歇性跛行

起立や歩行で悪化する腰部・殿部・大腿部・下肢の不快感や疼痛により、100~200m歩くと、一休みしないと歩行ができなくなる状態をいいます。間歇性跛行には大きく神経性間歇性跛行と血管性間歇性跛行があります。血管性は下肢の動脈硬化による筋肉への血行障害です。腰部脊柱管狭窄症は神経性間欠性跛行が出現します。腰部脊柱管狭窄症では一般的に坐位や腰をかがめたりすると改善します。また日によって歩行距離が変わり、調子のいいときと悪いときがありますが、次第に歩行距離が短くなり、日常生活が困難になります。

(2)膀胱直腸障害

排尿遅延、頻尿、排尿困難など男性であれば前立腺肥大症、女性であれば老化による尿失禁とよく間違えられます。
最終的には下肢の麻痺や尿閉となり歩行できなくなってしまします。

治療

腰部脊柱管狭窄症は加齢に伴う疾患です。高齢者になると成人病(脳梗塞、狭心症、糖尿病、高脂血症など)の合併も多くなります。成人病に対して運動療法が薦められます。若い人であればスポーツジムに通うのもいいでしょうが、高齢になると、なかなか若い人のような運動ができません。このため、「一日30分程度の散歩をしてください」といわれるのですが、この歩行ができなくなるのです。最初は500m程度歩行で跛行が出現していたものが、200mになり、100mになり、そして50mで出現するようになると、散歩すらしようとする意欲がなくなります。そうして、糖尿病の悪化や脳血管障害のために不可逆的な脳の障害を起こして、寝たきりとなる方もいます。『歩くこと』は人間が健康を維持するために、最も重要な機能と考えてください。このため、腰部脊柱管狭窄症の治療をおろそかに考えないようにしてください。

1)保存的治療

保存的治療で一過性に改善する場合もあります。保存的治療として、当院では(1)鎮痛剤、血流改善剤などの薬物療法 (2)神経根ブロック、硬膜外ブロックなどペインクリニック的療法 (3)安静・牽引・リハビリテーション療法 などを行っています。初期の例では非常に効果的です。しかし、腰部脊柱管狭窄症は加齢に伴い悪化します。保存的治療で改善が少ない場合や進行性に悪化する場合は無意味にブロックや薬物治療を継続しないことが大切です。無意味な保存的治療の継続は歩行・運動能力の減弱した中・高齢者の心肺機能の低下を急速に悪化させ、さらに糖尿病などの合併症の悪化などにより、外科的治療の危険性を増大させる原因となることを肝に命じるべきと考えます。

2)レーザー治療

当然のことながら全く無効です。

3)外科的治療

当院では(1)顕微鏡的腰椎椎弓形成術、(2)脊椎固定術などを行っています。腰部脊柱管狭窄症にすべり症を合併していない場合は(1)の手術を選択します。この腰椎椎弓形成術の手術技術の進歩は著しく、ほとんど30分程度手術で、翌日から歩行が可能です。ここでは詳細を述べませんが、当院でも数通りの手術手技があり、合併症もほとんどありません。

腰部脊柱管狭窄症患者のMRI

Aの写真は腰部脊柱管狭窄症の患者のMRIの段矢状断です。椎体の後ろにある白い部分が神経の入っている水の部屋です。L1/2、L3/4、L4/5に脊柱管狭窄症が存在しています。Bはこの患者のL2/3での断面です。正常な脊柱管で逆三角形の白い部屋(神経管)のなかに馬尾神経が入っています。しかし、CのL3/4ではこの部屋が椎間板の膨隆、黄色靭帯の肥厚、椎間関節の肥厚などで圧迫され、神経管が見えなくなっています。このような神経管が狭くなり、馬尾神経が圧迫された状態を腰部脊柱管狭窄症と呼びます。

腰椎すべり症を伴った腰部脊柱管狭窄症

単純な腰部脊柱管狭窄症では治療は容易なのですが、加齢的変化で椎間関節が破壊されていたり、あるいは無理な姿勢を腰に強要していると腰椎のすべりが出現します。腰椎すべり症とは椎骨が前方へずれる状態を言います。腰椎は生理的な前弯(腰椎を横から見ると、腹に向かって前方凸の弓状の姿勢)を有するため、下部の腰椎(第4腰椎や第5腰椎)では力学的に常に前方へずれようとする力が働きます。腰椎すべり症は腰椎分離すべり症(分離症を認めるタイプ)と腰椎変性すべり症(分離症を認めないタイプ)とに分かれます。病態メカニズムは分離症の有無にかかわらず、腰椎症性変化(年齢的な変化)が基盤となって、年とともに変性が進行し、次第にすべり症が発生すると考えられます。尚、「症状」と「すべりの程度」との間に相関関係はありません。

変性すべり症

高齢者の変性すべり症はほとんどといっていいほど腰部脊柱管狭窄症を伴っています。立位動態撮影によるミエログラフィーを行うと、臥位と立位ですべりが大きく変化する場合があります。そしてそのような患者のCTやMRIを詳しく見ていると、変性すべり症のある椎間関節はほとんどが変形、破壊されています。不注意な手術後に変性すべり症と同様な画像所見が得られることがあることから、すべり症は腰椎椎間関節の老化に伴う破壊性の変化と考えられています。
従って、外科的治療は椎間関節に多少でも影響のある腰椎椎弓形成術ではなく、破壊された椎間関節を固定するために神経の除圧の後に、腰椎固定術を選択することが多くなります。

変性すべり症を伴った腰部脊柱管狭窄症

L4/5に椎体のずれ(すべり)を伴った腰部脊柱管狭窄症がみられます。

医原性すべり症を伴った腰部脊柱管狭窄症

L3/4の手術が以前行われていますが、その後に症状がさらに悪化するようになり来院した患者です。L4/5に椎体のずれ(すべり)を伴った腰部脊柱管狭窄症がみられます。

分離すべり症

分離すべり症の原因として若年者で激しいスポーツをする方に多くみられます。脊椎の関節突起が離れたものを脊椎分離症といいます。二次的に、脊椎の後方要素が不安定になり、椎体が前方に変位したものを、脊椎すべり症といいます。重度化すれば腰椎椎間板ヘルニアと同じく、神経根を圧迫して、下肢痛が出現することもあります。治療 日常生活の注意として、腰に負担のかからない姿勢、つまり中腰の姿勢にならないようにします。
基本的に神経が圧迫されることは少ないので、私たちの施設では手術治療には消極的です。しかし、ヘルニアを伴って下肢の麻痺がきたり、椎体の半分近くまでずれが進行していれば手術を行います。

脊髄腫瘍とは

脊髄腫瘍とは、脊髄内に発生した腫瘍や、クモ膜、硬膜、神経鞘(神経を保護する膜)、さらに脊柱管内の軟部組織や椎体に発生した腫瘍により,脊髄や神経根が圧迫される病気の総称です。頻度は脳腫瘍の10分の1で、年間10万人あたり1人発生するといわれています。
脊椎脊髄に発生する腫瘍の分類では(1)硬膜外腫瘍:ほとんどは転移性の脊椎腫瘍が占めますが、脊髄腫瘍のなかには含めません。
脊髄腫瘍は(2)硬膜内髄外腫瘍(80%):ほとんどは神経鞘腫(神経根から発生)と髄膜腫(脊髄の周囲の硬膜より発生)です。特殊なタイプとして砂時計腫瘍(神経管内外に発育)がありますが、これはほとんどが神経鞘腫です。
(3)硬膜内髄内腫瘍(20%):これは脊髄そのものより発生する腫瘍で、脊髄の中に存在します。一部が脊髄の外に顔をのぞかせている場合があります。星細胞腫と上衣腫がほとんどを占め、ついで血管腫がみられます。
 

症状

腫瘍の種類に関わらず通常は脊髄や神経根が圧迫されて引き起こされる症状です。なかには水頭症など脳の症状で発症する場合もあります。
多くは四肢の神経痛や筋力低下、感覚のしびれがみられます。中には、比較的急激に発病して手足が動かなくなったり、尿や便の失禁、呼吸障害など重篤な症状を示す例もあります。また、最近のMRIやCT検査の進歩により、これまでなんら病気の兆しも無いのに偶然の検査で見つかることもあります。

治療

腫瘍は偶然見つかった場合は保存的にみる場合もあります。しかし、多くの場合、腫瘍は大きくなりますから手術時期によっては,脊髄の障害が不可逆的になっていることも考えられますので、早期に何らかの治療を選択する必要があると思います。

  1. 薬による治療
  2. 血管内外科治療
  3. 放射線治療
  4. ガンマナイフ(特殊な放射線治療装置)

1)~4)はある種の腫瘍に対する縮小効果が報告されていますが,現在の医学のレベルでは完全に治癒は期待できませんので、次に述べる腫瘍摘出術の補助的な役割として行われることが多いようです。

脊髄腫瘍摘出手術

脊髄は脊椎と硬膜に覆われています。この複雑な構造物の開放の後、脊髄腫瘍を顕微鏡下に摘出します。摘出後に再び、硬膜を顕微鏡下に縫合し、脊椎の再建を行います。多くの場合ほとんど合併症を起こさずに摘出可能ですが、やはり他の多くの脊椎手術と異なり合併症には注意が必要です。

上位頚椎部に発生した髄膜腫。髄膜腫は脊髄前方に発生しますが摘出は容易です。
胸椎・腰椎移行部に発生した多発性神経鞘腫。摘出は非常に容易です。
上位頚椎部に発生した髄膜腫。髄膜腫は脊髄前方に発生しますが摘出は容易です。
脊髄円錐部(脊髄の下の端)に発生した上衣腫。この部位では摘出容易です。
頚髄から脳幹に広がる上衣腫。手術難易度は非常に高くなり、手術時間も4~5時間かかり、術後も入院生活が1ヶ月程度かかりましたが、この患者さんは独歩退院されました。

脊髄腫瘍摘出術の合併症

  1. 脊髄・神経根損傷
  2. 手術後の出血
  3. 髄液漏
  4. 脊椎変形、不安定性
    脊髄腫瘍の手術では,脊髄を被って保護している脊椎という骨を一部切除する必要があります.脊椎は体を支える支柱の役割を担っていますので,この操作により脊椎の変形や不安定性を生じることがあります。当院ではこのようなことが可能な限り起らないように、若年者では完全に脊椎を復元するための方法を選択します。中・高齢者でも多くの場合、脊椎の再建に努めて術後の変形を最小にとどめる工夫を凝らしています。
  5. 感染・髄膜炎
  6. 麻酔,輸血,薬剤などによるショック
  7. 肝炎・腎不全などの臓器障害
  8. その他予想外の合併症
  9. 呼吸障害と肺炎
  10. 水頭症

私たち脊髄脊椎外科センターの最大の特徴は脊髄腫瘍の手術にあらわれていると思います。脊髄外科医が持つマイクロサージェリー(顕微鏡手術)の技術と脊椎外科医がもつ骨関節の技術が完全に融合した状態での最高の医療を提供できると思っています。

骨粗鬆(そしょう)症とは

骨の量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。日本では、約1,000万人の患者さんがいるといわれており、高齢者人口の増加に伴ってその数は増える傾向にあります。
骨は皮質骨(骨の皮の部分)と海綿骨(骨の中身の部分)から形成されています。海綿骨はたくさんの支柱で形成されていますが、右の図のようにこの支柱が少なくなった状態が骨粗鬆症です。

骨粗鬆症は大きくふたつに分かれます。

(1)原発性骨粗鬆症

閉経(月経がなくなること)や加齢(歳をとること)にいろいろな原因が重なっておこる、最も多くみられる骨粗鬆症です。

(2)続発性骨粗鬆症

特定の病気や薬剤によっておこる骨粗鬆症です。
骨粗鬆症になると、ちょっとした外力(しりもち、転倒など)で手首の骨や足の付け根の骨の骨折を起こします。脊髄脊椎外科治療センターでは背骨の骨折の治療を中心に行っていますので、腰痛などの原因になる骨粗鬆症による背骨の骨折を中心にしてお話します。

左は正常の腰椎CTです。右は骨粗鬆症の腰椎CTで、海綿骨が少なくなっています。
背骨の骨折は軽度の「変形」から明らかな「骨折」まで、いろいろな段階がみられます。激しい痛みで動けなくなってしまうこともありますが、痛みのないこともあります。しかし、安静にして寝てばかりいると筋力が低下し、骨もさらに弱くなってしまう恐れがあり、通常コルセットで腰を固定し、座る・立つ・歩くというリハビリテーションが重要です。一般的に安定性の圧迫骨折であれは激しい腰痛は数日で改善します。
骨粗鬆にともなう骨折は多くの場合、保存的治療で治ってしまいます。しかし背骨が進行性潰れてきたり、偽関節(骨折部がくっつかずにいつまでもグラグラした状態)となり、いつまでも腰痛やさらには脊髄を圧迫して足の麻痺が出現して歩行できなくなることがあります。脊髄脊椎外科治療センターに圧迫骨折後の慢性の腰痛で来院される患者さんのなかにこのような方がたくさんいます。圧迫骨折を起こすと必ず背中が丸くなります。しかし、これまで健康で活動していた方は背中が丸くなることが恥ずかしいと感じることが多く、寝るときは背筋を伸ばそうとして、仰向けで寝ているようです。しかし、立っているときは痛みのために背中をかがめて歩きます。この姿勢のギャップがいつまでも骨折が治らず、偽関節形成を起こしてしまいます。こうなってしまうと、手術治療を選択せざるを得ません。

圧迫骨折の治療を保存的に行われた方で、半年たっても、腰椎が改善せず、足のしびれがではじめて歩行困難になり、私たちのセンターに訪れた、75歳の女性の患者さんの写真です。立った状態で撮影したレントゲン写真では、くの字(逆の「く」ですが)に背骨が曲がっていますが、仰向けに寝た状態で撮影したレントゲン写真ではまっすぐになります。圧迫骨折をおこした背骨がワニの口のように、閉じたり、開いたりしています。これが背骨の偽関節です。これをCTでみてみますと、折れた骨の中に空気がはいって、さらに脊髄を圧迫しているのがわかります。

脊椎(胸椎・腰椎)不安定骨折とは

背骨の骨折には安定性の骨折と不安定性の骨折に大きく分かれます。安定性の骨折は受傷早期にギプス固定やコルセットでの治療で治癒します。しかし、不安定性の骨折では長期の安静や固定が必要であり、その間に身体の筋肉や心臓や肺の機能が弱ってしまい、生命の危険にさらされることもあります。
 
この不安定性の背骨の骨折とはレントゲン写真では受傷早期にはわかりにくいのですが、CT・MRI写真で容易に判断できます。
背骨は横から見て三等分します(A:前方要素,B:中央要素,C:後方要素)。この三等分のうち、ひとつの部分だけの骨折であれば安定性の脊椎骨折と判断して、コルセットまたはギプスで治療します。しかし、二つ以上の部分の骨折であれば不安定性骨折と診断されます。
不安定性骨折の場合、全身状態を考慮して、手術治療法を選択します。全身状態が不良の場合は保存的治療を選択せざるをえないこともあります。しかし、この場合、長期間の入院、ギプス固定が必要であったり、歩行障害の進行のため、日常生活が困難になることがあります。

また、進行性の圧迫骨折の進行のために、当初は容易な手術方法(椎体形成術・後方固定術など)であったものが、脊柱管内に骨片が入り込んで、前方からの手術が必要になり、大きな侵襲となることもあります。脊髄脊椎外科治療センターではこのような進行性圧迫骨折の予防のためにいろいろなアドバイスを患者さんの状態にもとづいて、本人・家族の方と相談しながら治療を進めていきます。

下のMRI写真は同じ患者さんの第12胸椎の写真です。受傷時の圧迫骨折(不安定圧迫骨折なのですが)に対して、年齢を考慮してコルセットで加療されていましたが、3ヶ月後には圧迫骨折がさらに進行して脊髄を押さえ込むようになり、腰痛ばかりでなく、脊髄神経を圧迫して、足の麻痺のために歩行困難になっていました。この場所の手術は大手術となりますので、この進行を食い止めることができるため私たちは積極的にこのような不安定性骨折に対して外科的治療を選択します。

受傷機転は転倒・転落事故が多いのですが、骨粗しょう症があるばあいは、しりもちのような軽微な受傷機転でもおこることがあります。
中には高所からの転落事故で受傷直後から脊椎が骨折して、脊髄や馬尾神経を強く障害することもあります。下の写真は5階から転落し、第12胸椎の脱臼粉砕骨折です。CTでは椎体が電球のようにばらばらになり、骨片が神経管内に入り込んでいるのがわかります。また、3D-CTでは脊椎の状態が明瞭にとらえることができます。

手根管症候群

図:正中神経の走行と神経支配(右手)
手根管症候群とは、手首の内側で末梢神経が圧迫されて手指のしびれや痛み、親指の脱力を来す疾患です。末梢神経が圧迫されて起こるしびれや痛みのことを拘約性神経障害といい、手根管症候群のほかに肘の関節で神経障害を起こす肘部管症候群やくるぶしのところで神経障害が起こる足根管症候群などがあります。手根管症候群は中年以上の女性に多い疾患です。
原因は手首の内側にある屈筋支帯と呼ばれる靱帯が何らかの原因で肥厚して、その下を走る正中神経という神経が圧迫されて起こります。女性に多く、手首をよく使う人に起こりやすい傾向があります。そのほか妊娠や人工透析も原因になることがあります。

正中神経の感覚支配は図の薄い灰色の部分です。濃い灰色の部分は特にしびれを強く感じる部分です。

症状は手指、特に人差し指と中指の先にしびれが生じます。親指や薬指もしびれますが、小指のしびれは出現しません。進行すると肘から肩にかけてのしびれや痛みを伴うことがあります。また母指球筋という筋肉が障害されます。母指球筋が障害されると親指と人差し指でものをうまくつまめなくなります。
そのほかこの病気の特徴として、冬季や夜間、明け方にしびれや痛みを強く感じます。手指のしびれや痛みのために夜中や明け方に目が覚めることがあり、この病気の特徴の一つです。
診断は神経診断と神経伝導検査で行います。診断で最も重要なのは薬指の感覚です。手根管症候群の患者さんでは、薬指の中指側の感覚が障害されますが小指側は正常です。この所見があればかなり高い確率で手根管症候群が疑われます。そのほか、手首の内側を軽くたたくと指先に電気が走るような感覚があること(ティネル徴候)や、手首を内側に強く屈曲したまま保持するとしびれが強くなる(ファーレンテスト)ことも重要な所見です。また手根管症候群の患者さんではしばしば母指球の萎縮がみられます。これらの所見があり、神経伝導検査で正中神経の伝導障害を証明すればほぼ診断は確定します。
治療はまず手首の安静やビタミン剤(ビタミンB12)の内服を行います。痛みを伴うときは神経ブロック注射を行うこともあります。安静や内服などでも症状が取れない場合や高度の母指球の麻痺を伴う場合は手術が考慮されます。 手術は我々の施設では局所麻酔下に顕微鏡を用いた最小侵襲手術を行います。手首のあたりを2cmほど縦に切開して屈筋支帯を切り離します。手術に要する時間は30分程度です。
手術を行うと痛みは速やかに取れますが、しびれや麻痺の改善には数ヶ月を要することがあります。また術前の症状によってはしびれは完全にとれないこともあります。また術後の合併症として手首の痛みが1ヶ月程度続くことがあります。